運び屋(監督と主演:クリント・イーストウッド)

出不精の私は映画館で封切りの最新作を観ることはほぼありませんが、ブログで映画の話をはじめるにあたっては、せめて最初は私が観た中では公開が最近の「運び屋」(AmazonPrimeで視聴)を主として、監督・主演をつとめたクリント・イーストウッドの過去作品を箸休め的に取り上げつつすすめていきたいと思います。深い考察とかは無理なので(^^;)この後も何作かを並べたり比べたりするようなテイでテキトウにやっていきたく存じますm(_ _)m

1960年代生まれの私がクリント・イーストウッドを初めて知った映画が「ダーティハリー(1971年制作)」です。テレビ(もちろん地上波)の洋画劇場で観たので、撮影から早くとも3~4年は経っていたと思いますが1930年生まれ/撮影当時40歳くらいだったイーストウッドの、小学生すらシビれさせるカッコよさったら・・!

主人公のダーディハリーことハリー・キャラハンは、サンフランシスコ市警の刑事で凶悪犯罪の担当です。ちなみに刑事の有名どころとしてはロサンゼルス市警に刑事コロンボが、ニューヨーク市警にダイハードのマクレーン刑事が、ロボコップは(近未来の)デトロイト市警所属など、全米各地に個性的で魅力的な有名キャラがいますが、ヨレヨレのコートにトボけた口調とか、アウェイでたった1人テロ組織に対抗せざるを得ないとか、悪党に集団リンチされ瀕死状態→同意もなくロボコップに改造されるとか、いずれも見ているほうが親近感を抱いたり、気の毒で肩入れせざるを得ないキャラ設定となっているケースが多いようです。が、ダーティハリーときたら。手荒な捜査手法が問題視され上司ウケが悪い=サラリーマンとしての評価が低いことくらいが弱点で、苦み走った男前で腕っぷしは凶悪犯罪者をしのいで滅法強く、ニヒルに構えてはいるが心優しく仲間思いで女性にはモテモテという小学生女子ならともかく、大人がこの設定で共感しますかね?な無敵設定(^^;)ですがいいのよね映画だし本当に男前なんだし。というわけで(ンナワケナイ)本作はその後シリーズ化してパート5(1988年制作/イーストウッド58歳)まで作られます。そこから幾星霜、88歳のイーストウッドが麻薬組織の末端構成員を演じたのが2018年に監督主演した「運び屋」です。押し出しの良さからダーティハリーシリーズ以外でも刑事や軍人、シークレットサービスなど「正義」側の役柄が多いイーストウッドが、数少ない捕まえられる側をやっています。

イーストウッド演じるアールは園芸家として成功し、自慢のユリをトラックに載せ全米各地の品評会に出品したり、自ら売り歩いたりと仕事に没頭する日々を送ってきました。しかし社会の変化(デジタル化とネット社会化)に対応できず次第に事業は衰退、ついには事業と生活の拠点であった農場を差し押さえられますが、永年仕事優先で家族を全くかえりみなかったため、今さら帰る家庭も寄り添ってくれる身内もいない孤独な老人です。差し押さえを免れた僅かな見回り品をピックアップトラックに詰め込み孫娘の結婚式に向かうも、久しぶりに会う元妻も娘も歓迎してはくれません。ですが、年季の入ったアールのトラックを見て声を掛けてきた列席者がいました・・・・この先ネタバレありです、未見及びこれから見る予定の方はご用心下さい。

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近づいてきたのは麻薬組織につながる男でした。男はトラックに貼られたアメリカ各州のステッカーに目を付け、なおかつアールが「一度も違反切符を切られたことがない」と知るや、そう告げはしないものの「警察に目をつけられにくい格好の運び屋」としてリクルートします。アールも年の功でマトモな仕事ではなさそうだと承知していますが、孫娘に結婚パーティの資金援助を約束したはいいけれど金欠で、背に腹は代えられず指定された場所に向かいます。組織の男たちは現れたアールが高齢者であることを危惧しますが、優良ドライバーの経歴が決め手となり面接に合格、男たちの指示に従い無事に初仕事を成し遂げます。見返りに大金を得たアールは、大金ゆえにそれが後ろ暗い金であることを確信しますが、孫娘に感謝され元妻とも久しぶりに親しく話せたことで「一度だけ」の決心は簡単に揺らぎ、深みにはまっていきます。回数を重ねて運ぶ量も増えるにつれ、失った農場を買い戻す、所属する退役軍人クラブではクラブハウスの再建資金をポンと出せるほどの報酬を得るようになります。やがて働きぶりは麻薬組織トップの知るところとなり、邸宅に招かれ直々に労をねぎらわれる有能な運び屋になっていくのでした。

そのころ麻薬取締局=DEAはドラッグの流通量が増えていることに危機感を強めていました。最終的にアールを逮捕するベイツ捜査官を演じるのは2014年にイーストウッドが監督制作した「アメリカン・スナイパー」で主演をつとめたブラッドリー・クーパー男前です。

DEAは内通者から麻薬組織内でこのところ「タタ(=パパの意味、アールを指す符牒)」なる運び屋が台頭していることを掴みます。捜査の手は確実にアールに近づいていましたが、運び屋で得た資金での孫娘への援助をきっかけに家族との絆を取り戻しつつあるアールは、過去の自分の過ちと本当に大切なものを痛感していくのでした・・って本筋の「犯罪は損するよ」に加えて「悪銭身に付かず」的なことを訴えてるのかなと思うのですが、アールは過去を反省しつつも運び屋の仕事に抱く罪悪感はさほど強いとも思えず、仕事旅の途中でコールガールは呼ぶわ(しかも1度に2人)心を入れ替えたというようなことではほぼないのです。でも元々も仕事人間だっただけで、家族以外に迷惑をかけておらず悪人だったわけではないし。。。ここらへんがイーストウッド監督のハードボイルドというか現実世界への夢が皆無なところです。映画は麻薬組織内のトップ交替によるイザコザや、眼前の気の良い老人が「タタ」とは夢にも思わないベイツ捜査官が、アールを疑うどころか人生のアドバイスまで受けてしまうエピソードなどはさみつつ、まあまあの終焉となります。イーストウッド映画にありがちな半年くらい思い出してはどんより暗くなる終わり方ではありません(^^;)ので観たいけどミリオンダラー・ベイビーみたいだったらイヤだなあとお迷いの方は安心してご覧下さい。ミリオンダラー・ベイビー(Million Dollar Baby 2004年、監督主演クリント・イーストウッド)↓

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本作は、イーストウッドがとうとうおじいちゃん役を受け入れたんだなと感慨深い映画でした。とうにおじいちゃん役、それも年寄り扱いに傷付く初々しい老人(?)ではなく、耳遠く目霞みトイレ近いのが常態みたいなベテランおじいちゃん役で主演を重ねてきたイーストウッドですが、一貫していたのは、ひとつ前の出演作「人生の特等席(2012年/イーストウッド82歳)」の老メジャースカウト役のような、老化による視力の低下を指摘され「引退すれば年金もありラクできる」と周囲に気遣われても「ラクなど求めていない」とつっぱねる気骨老人に代表される「心の強い人」でした。人生の特等席(Trouble with the Curve,2012年)

おじいちゃんのアルマゲドンとも呼ばれた2000年のスペース・カウボーイ(監督主演のイーストウッド70歳、月に自ら希望して置き去りにされるトミー・リー・ジョーンズ意外と若く54歳、ドナルド・サザーランド65歳など爺様スター目白押し)あたりから得意としてきた役柄ですが、

本作では悪いこととわかりつつ他に活計のアテもないので犯罪の片棒を担いでしまう、そこらに居そうな「弱い老人」を演じているのです。イーストウッド大丈夫かなあ。この役を選んだのが気力の衰えとかじゃないといいんだけど。この5/31で90歳になる御大ですが、また孫より若い美女とお泊まりして浮名を流すとか、90代で監督主演とかのお達者情報がもたらされることを、ファンとしては願うばかりです。

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