蜘蛛女(主演:ゲイリー・オールドマン)

蜘蛛女(原題ROMEO IS BLEEDING/1993年/英米合作)は、小悪党が本物の悪党にいいように利用されズタボロになる映画。「Crime doesn’t pay=犯罪はペイしない」という英語のことわざ、そのまんまなお話です。登場する通信手段は固定電話に郵便というほぼ三十年前のクライム・サスペンスで、感動作!とか○○賞受賞!とかじゃないので配信は見つけられませんでしたが、レンタルショップの旧作コーナーやTV放映があれば観て損はない良作だと思います。

荒涼地にぽつんとたたずむダイナー。店主の一人語りで物語は始まります。店主はかつて都会で警察官をしていました。本人が「夢多き男だった」と振り返る刑事ジャック(ゲイリー・オールドマン:レオン、エアフォースワンなどの悪役。近年はチャーチル首相を演じてアカデミー賞受賞の名優)は、仲間から「ロミオ」とあだ名される色男で女好き。美しい妻がありながら若い愛人を囲っています。お金も大好き。マフィアに捜査情報を売って見返りに大金を得ていました。妻にも秘密の汚職で得た「夢を叶えるため」の金は50万ドルにもなろうとしていますが、美貌の女殺し屋に出会ったところからジャックの犯罪は割りに合わなくなり始めます。以下ネタバレしています。


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ジャックが漏洩した情報により、法廷でマフィアに不都合な証言をする予定だった元マフィアが殺害されます。巻き添えで警護のFBIも皆殺しにされ、わずかな罪悪感を覚えたジャックはマフィア側窓口のサルに文句を言いますが、サルは取り合わず更なる情報を要求します。実行犯として警察に逮捕拘留中のモナ・デマルコフ(レナ・オリン)は、かつて男女関係にあったマフィアのドン(ロイ・シャイダー:「ジョーズ」の署長の人。悪役も似合う)すら扱いかねる狡猾な新興ロシアマフィアで、次なる内部告発者となる恐れもあって組織はモナを亡き者にするつもりでした。

モナをFBIに引き渡す任務がジャックに下ります。美貌のモナをバックミラーでチラ見し続けるジャック。指定のホテルルームに落ち着くと「逃がしてくれたら大金を払う」とぐいぐい迫るモナ。女性もお金も大好きなジャックがむしゃぶりついたところにFBIが到着します。大恥をかかされたジャックはモナの居所をとっととマフィアに売りますが、モナはどこかへ移されたあとで、さらに移送途中にスキをついて逃走、行方をくらましていました。ジャックは偽情報を売ったとマフィアから落とし前を迫られ、妻と愛人の命をカタにモナ殺害を命令されます。

自分が売った捜査情報で誰かが死ぬのは平気でも、直接人を殺すことには抵抗があるジャックが悶々としているところにモナが接触してきます。モナを殺害したとマフィアに報告することと、死亡証明書と新たな身分証明書を用意すれば32万ドルを払うという取引でした。危険だとわかりながら「あなたは大金に相応しい大物よ」とミエミエの褒め殺しと色仕掛けにやっぱり乗ってしまうジャック。その後モナに渡す書類の偽造などしているうち、事態が進展しないことに怒ったマフィアのドンの指示でジャックは左足の爪先を切断されます。痛い目に合ったとたんに恐慌を来たしたジャックは、家に逃げ帰り妻にすべてを打ち明けます。隠していた金を妻に渡し、落ち合う場所とタイミングを言い聞かせると、それまでどこかへ逃げていろと空港へ送り届けます。愛人も「故郷に帰れ」と諭して列車に乗せます。

一夜明けて待ちあわせの桟橋。妻と愛人を逃がしている間に何者かに家捜しされていた自宅には居られず、警察を頼るわけにもいかず怪我も治療できないボロボロのジャックは、現れたモナの車に倒れるように乗り込みます。偽造した死亡証明書等とひきかえに大金が入ったバッグを受け取り緊張感が緩むジャック。その瞬間をモナは見逃さず準備していたワイヤーで首を締め上げます。ジャックは何とか車外に逃れモナを銃撃します。左腕に被弾してもつかみかかってくるモナをぶん殴り後ろ手で手錠で緊縛し、後部座席に押し込んで車を出しますが、モナは自由になる両足を伸ばして運転席のジャックの首を締め上げます。運転をあやまり車は電柱に激突、ジャックは気絶します。モナは銃創&手錠もなんのその、金も書類も回収してその場から逃げ去ります。

何としてもモナを見つけて殺さなければ、自分がマフィアに殺されます。モナに内通する人間がマフィア側に居ると考えたジャックはサルを見張り、深夜サルとモナが密会する場面に出くわします。ホテルの窓辺にサルとモナの影が見えて二人は揉めている様子。やがて灯りが消えて銃声がとどろきます。二人がいた部屋に忍び込むジャック。窓辺に女性の人影を見たジャックはモナだと思い込み発砲しますが、それは故郷にいるはずの愛人シェリー(ジュリエット・ルイス)でした。ジャックは射撃は得意です。シェリーは絶命していました。シェリーを殺してしまったことにショックを受け慟哭しながらジャックは立ち去ります。

モナは隠れてその様子を見ていました。シェリーの遺体から左腕をチェーンソーで切り落とすと、予め外科手術で切除し冷凍していた自身の左腕と置き換え、あたりに灯油をまいて着火しホテルをあとにします。翌朝ジャックは新聞でモナが「焼死体で発見」されたことを知りますが、マフィアに見つかりぶん殴られて気絶します。

気付くとモナのアジトのベッドに緊縛されているジャック。マフィアの男たちが去ると「(銃撃したことを)怒ってないわよ」とモナがしなだれかかってきます。事後、二人でドライブしながら、モナは初めて人を殺した時のことを打ち明けます。人を利用し殺すことに一片の抵抗も見せないモナに「誰かを好きになったことはないのか?」とジャックが問うたことがありました。それに応えているつもりなのか、とても素敵な思い出よ。彼の目はあなたと同じ綺麗なブルーだったのと涙ぐむモナ。やっぱり俺に満更じゃないんだな・・・・いい気になるジャックですが、人気のない川沿いで車を停めたモナが下した命令は非情でした。捕らえられて車のトランクに押し込まれているマフィアのドンを、穴を掘って埋めよと言うのです。人殺しはできないと拒否するジャックに「殺せとは言ってない。埋めた結果死ぬのは仕方がない」とモナは言い放ちます。「この男さえ消えればあなたは自由なのよ」モナはよくよくジャックの性格をわかっています。イヤなら穴は2つ掘ってもらうと銃口を向け脅されなくても、ジャックが断るわけもありませんでした。

ドンを埋めたあとホテルの部屋で報酬を受け取ったジャックですが、モナの色仕掛けに引っかかり去り時を見誤ったため逮捕されます。モナはジャックを警察に売っていました。あらゆる罪を小悪のジャックに着せて無罪放免を狙うモナの法廷戦術に対抗すべく、FBIはジャックを内部告発者として活かすことに。知り得たことを洗い浚い喋るなら、罪は不問の上に証人保護プログラムで新しい身分・住居・職業が与えられます。受け入れて裁判所へ向かうジャック。そこで弁護士と一緒のモナに再会します。利用された恨み・売られた怒りをモナにぶつけるジャック。モナはドン亡き今、組織のトップになったことを告げると、もはや利用価値の無いジャックに対し「まさか私が好きでアンタと寝たと思ってる?」とせせら笑います。ジャックは「俺が愛しているのは妻だけだ」と言い返しますが「お気の毒。二度と彼女を抱けないわよ。死んでるから」高笑いとともに去るモナに向けて、警護の元同僚がいつも膝下に隠している銃を奪い取って発砲するジャック。ジャックは射撃は得意です。何発も命中しモナは絶命します。その後ジャックは拳銃を口にくわえて自殺を企てますが、弾切れでかないませんでした。

ジャックは証人保護プログラムにより、妻ナタリー(アナベラ・シオラ)に指定したダイナーの主人として生きています。ナタリーは5/1に訪ねて来る約束ですが、翌日になっても現れませんでした。もっとも最初の5/1(その日が無理なら12/1という段取り)からすでに五年が経過していました。ナタリー宛に出した手紙も届かず返送されています。それでもジャックはその場でナタリーを待ち続けるしかないのでした。

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モナの言ったことがハッタリでナタリーは生きていたとしても、ジャックのダイナーには行かない気がします。ジャックのクズ夫エピソードは映画のあちこちに散りばめられていて、浮気に勘付いていることをそれとなく匂わせるナタリーに「口数が少ないのが君の長所だったのに」と嫌味で混ぜ返す。ナタリーの姪と、そして妹とも肉体関係があったという最低最悪のエピソードも。モナは最初の邂逅でそんなジャックの本性を見抜いてトコトン利用したわけです。人の上に立とうと思えば人を見る目が必要なのは反社も同じ(^^;)モナが極悪人なのは間違いありませんが、ジャックがあまりに姑息なので、躊躇ゼロのモナの悪党っぷりが清々しくさえ感じる不思議。妻への謝罪と後悔を手紙にしたためながら自分可哀想さでおいおい泣く情けないジャックと、ボンテージ風装具で義手を取り付けた裸身をくわえ煙草で検分し、満足そうに微笑むモナとの対比も鮮やかでした。

モナ=スウェーデン人女優レナ・オリンがとにかくハマり役です。私はこの映画でしかこの女優さんを知りませんが、低いハスキーボイスと婀娜な雰囲気が昭和の大歌手青江三奈さんを彷彿させる(たぶん私だけ)迫力美女ながら、ゲラゲラ笑いながら美脚で男を絞め殺そうとしたり、ハイヒールを脱ぎ飛ばし裸足のがに股で激走したりと、おおよそ従来型ではない身も蓋もない女殺し屋を怪演。映画終盤ジャックは自身で殺しておきながら、モナがダイナーに現れる幻覚にビビりますが、トラウマ当然な存在感でした。セクシーな下着にロングジャケット風ワンピースなどマニッシュなモナの衣装もカッコよく、男性は警官もマフィアもソフトスーツで時代を感じます。サントラもカッコいいです。むぎ「おんなは、こわいのニャ」

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