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Mr.ノーバディ(アメリカ映画/主演ボブ・オデンカーク)

2021年制作 原題Nobody  共演クリストファー・ロイド(Back to the Futureシリーズのドク)

義父が経営する工場に会計士として勤めるハッチ(演:ボブ・オデンカーク)は、妻(コニー・ニールセン)子供二人と慎ましく暮らす目立たない男。ある深夜ハッチ宅に泥棒が侵入し、気付いて起きてきたハッチに拳銃を突きつける。スキをついた長男が泥棒に飛びかかり形勢逆転と思いきや、ハッチが制止し長男は殴られてしまう。現金は小銭程度しか置いてないというハッチの冷静な説明と、妻の懇願で泥棒はそれ以上の乱暴は働かず逃走する。被害は腕時計と小銭入れだけで済んだが、この日以来、妻と長男、経緯を知った工場で働く親族たちまでが、戦おうとしなかったハッチを見下げた態度を取り始める。ハッチは一連の出来事を気にしないそぶりだったが、パパっ子の末娘の宝物だったブレスレットも先の泥棒に盗まれた可能性が出てくると、奪い返すため行動を起こす。

どこにでもいそうな無名の人(ノーバディ)が実は無敵だったという、見飽きた感のある設定ですが、ダレる部分がなくあっと言う間の一時間半でした。強い!でも見た目はしょぼくれたおじさんのボブ・オデンカーク素晴らしい。ブルース・ウィリスの系譜かな。しかしどうしても名前が気になる。。。odenkirk はどうしたって おでんカークでしょうけど、よりにもよって何故おでん。おでん以外で何か、カークの前におさまって可笑しくない日本料理名はないものか?と何の足しにもならないことをついつい考えてしまうじゃないですか(未だ考えつかないけれど)。外国語がたまたま変に聞こえるケースは誰が悪いわけでもなく、ひるがえって日本語の○○は××語だと△△の意味なのよヤダー的なことがあり、仮にそれが自分の名前だったとしても受け入れる他ないんだろうことを、油ハムや疣ンヌ以来、久しぶりに思い出しました。

めぐり逢わせのお弁当(インド映画/主演イルファン・カーン)

2013年制作 原題Dabba 英題The Lunchbox/劇中名言「間違った電車が正しい場所に着くこともある」

インドのムンバイには、お昼前に各家庭からお弁当を集荷し、勤務先の家族に配達する「ダッバーワーラー」というデリバリー業があります。食に関する戒律が厳しい宗教が混在していて安易な外食が馴染まないのと、作りたてを食べるインドの食習慣(常夏気候なので、早朝作ったお弁当を持参し、約6時間後に食べる日本式のやり方は危険かも)から、このお弁当集配システムはコンピューターもない大昔から商売として確立していて、その誤配は1600万回に一回という脅威の正確さを誇るそうですが、その滅多にないという誤配から物語は始まります。お弁当を作ったのは夫婦関係に悩む主婦のイラ、食べたのはアカの他人の会計士サージャン(イルファン・カーン)です。以下とっかかりをおおまかに。

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サージャンは妻を亡くし生きる目標を見失った。退職を目前に控えた勤務先では、後任の人懐っこい会計士シャイクが疎ましくて仕事の引き継ぎはなおざり。帰宅するとボールが敷地に入ったから取らせてと近所の子供たちが待っていたが無視。テイクアウトの夕食を機械的に食べて眠る。無気力無感動に暮らしていた。そんなある日の職場でのランチタイム、契約している弁当屋にしては上出来な美味しいお弁当が届き、サージャンは夢中で完食する。

いっぽう夫と幼い娘と暮らす専業主婦のイラは、冷え切った夫婦仲を修復すべく上階のおばさんの助言で腕によりをかけてお弁当を作った。配達人から戻された弁当箱は舐めたようにきれいになっていたのに夫の反応は薄い。使っていないカリフラワーが「美味かった」と言われ、誤配の可能性を考えるイラだったが、翌日「きれいに食べてくれてありがとう」と手紙をしたため弁当箱に忍ばせる。手紙を読んだ夫が妻をかえりみるはずだというおばさんの知恵だったが、お弁当はまたもサージャンに届く。「今日のは塩辛かった」サージャンが弁当箱に返信を入れたことで二人の文通が始まる。

心のこもったお弁当と文通をきっかけにサージャンは人心地を取り戻し、仕事帰りに絵を見に行ったり、シャイクにも心を開き公私にわたっての付き合いを始める。イラは以前はおばさんに愚痴っていた夫への鬱屈を手紙に書くようになり、サージャンからの返事を心待ちにしていた。見ず知らずの二人の気持ちはどんどん近づき、イラは「会いましょう」と提案するのだが。。。

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「人は時々、間違った電車でも正しい場所に着く」孤児で苦労人のシャイクが何の気なしにサージャンに告げるセリフです。インド映画なのに歌もダンスもなしの静かな恋愛ドラマで、冒頭のダッバーワーラーをはじめ「インドってそうなのか」的発見がある映画でした。家庭をかえりみないイラの夫について、インド社会の急激な発展による仕事の激化のせいで誰しも余裕がないのだとサージャンがイラを慰めるやりとりがありました。本作は2013年公開で、コロナでどうなったかはわかりませんが、劇中電車もバスもつねにぎゅう詰め満員で、オフィスには大勢の人が働いていて、街中は行き交う人々と車でごった返し、どこもかしこもエネルギーが迸るようでした。若者が多いし、シャッター街なんてどこにもなさそう。町も国も人々の暮らしも爆発的に発展していた頃は日本もこんな感じだったのかなと思いました。

スパイ映画あれこれ(裏切りのサーカス/キングスマン/コードネームU.N.C.L.E)

裏切りのサーカス(原題:Tinker Tailor Soldier Spy/2011年/英仏独合作)

運動能力超人が大活躍するスパイ活劇とはひと味ちがうシブいスパイ映画です。経験不足の田舎スパイがテンパって一般人を殺傷したり、靴を履いたスタイルがアカの他人にさらす常態である文化圏において(なので日本人の私にはさほど違和感はなかったのですが)階下の敵に存在を気取られないよう、スーツにコート姿のイケメン主演俳優が靴下裸足という間抜けな姿になるなど「本当のところは、こんな感じなのでは」と思わせるリアリティがありました。

舞台は東西冷戦時代の英国秘密情報部(通称サーカス)。対東側戦略の度重なる失敗から、部下に二重スパイがいると確信するコントロール(サーカストップの役職名)だったが責任を取らされ辞任、やがて失意のうちに亡くなる。その右腕だった主人公スマイリー(ゲイリー・オールドマン)もあおりを食ってサーカスを去った身だったが、コントロールが密かに探っていた裏切り者特定を引き継ぐよう、サーカスを所管する英外務省から依頼される。冷徹なベテラン工作員のスマイリーだが、私生活では妻の裏切り行為に苦しめられ、しかし妻への執着はいっこうに捨てられないことに疲弊していた。

劇場公開時のキャッチコピー「一度目あなたを欺く。二度目、真実が見える」の二度見推奨作品だったようですが、私は今回ブログを書くために観た三度目でやっと色々腑に落ちた感じ(^^;)。込み入った内容と前後する時系列にそこらへんを説明する台詞もないので、ワケがわからないまま鼻面を引っ張り回される感があり好みが分かれる映画かもしれませんが、傑作だと思います。優男イケメンで見た目そのもののインパクトは希薄なゲイリー・オールドマンを補うように、ベネディクト・カンバーバッチ、トビー・ジョーンズなど顔面力の強い共演者揃い。その反面、主人公を苦悩させ続ける「美しく奔放な妻」の顔はしかとは見せない、主人公がかつて二重スパイになるよう熱心に勧誘するも寝返ることなく、今はソ連スパイ組織のトップとなって激しく敵対する「カーラ」にいたっては顔を全く映さない演出も上手いと思いました。

以下はキングスマン、コードネームアンクルについての概略です。
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追悼:田中邦衛さん(八つ墓村/居酒屋兆治)

俳優の田中邦衛さんが2021年3月に亡くなりました(享年88歳)。代表作「北の国から」は連続ドラマも、その後日談として数年おきに放送された単発ドラマも楽しみに観ていました。北海道に旅した際には撮影地の富良野まで足を延ばして、撮影で使われた歴代の家や劇中に登場したお店など見物したのも良い思い出です。2002年の「北の国から 遺言」以降俳優活動は途絶え、いつしか私の心の中では「富良野のどこかで暮らしている黒板五郎」になっていた田中邦衛さんでしたが、名優は映画でも唯一無二の存在感を放っていました。

まずは「八つ墓村」(萩原健一主演/野村芳太郎監督/1977年)。何度もテレビ放送された名作なので、観たことがある方が多いと思いますが、横溝正史原作のオカルト作品で、田中邦衛は騙し討ちにあって惨殺される落ち武者を演じています。以下ネタバレしています。


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追悼:2020年に亡くなった映画の巨星たち

昨年10月に90歳で亡くなったショーン・コネリー。007=ジェームズ・ボンドを長年演じたことで有名ですが、007シリーズに縁なく一作も見通すことなく半世紀過ごした私が思い返すのは「アンタッチャブル」の老警官(アカデミー助演男優賞を受賞)、ハリソン・フォード演じるインディ・ジョーンズ博士のお父さん、「ザ・ロック」の老英国スパイといった役どころ。この老スパイは役名をジョン・メイソンといって、老後の007というわけではもちろんないのですが、「私は女王陛下のスパイだ」と自己紹介する場面では劇場内が小さくどよめきました。ショーン・コネリー=007=英国が世界に誇るスパイという連想は、虚構とは言え世間(?)の共通認識で差し支えなかったと思いますが、ロンドン五輪後は、開会式で007として本物のエリザベス女王と共演したダニエル・クレイグに更新されたかもしれません。

「アンタッチャブル」1987年/アメリカ映画/ブライアン・デ・パルマ監督

1930年代のシカゴ。禁酒法を逆手にとり闇酒製造と密輸で大儲けするギャング(=アル・カポネ:演ロバート・デ・ニーロ)を逮捕すべく、役所の垣根を越えて結成された法の番人たち(お巡りさんのショーン・コネリーの他は、主演ケビン・コスナーが財務省の捜査官、アンディ・ガルシアの刑事など)の特別チーム「アンタッチャブル」の命がけの攻防を描いた名作。実際にアル・カポネと渡り合ったエリオット・ネス捜査官の自伝をもとに映画化されました。

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パリ、嘘つきな恋(2018年)/最強のふたり(2011年、ともにフランス映画)

監督・脚本・主演のフランク・デュボスクは、フランスでは誰もが知るコメディアンで、本作が初監督作品だそうです。お笑いの世界で成功すると映画を作ってみたくなる・・いうのは古今東西のクリエイターに共通みたいですね。

主人公ジョスランは独身主義の中年プレイボーイ。母の遺した車椅子にたまたま腰掛けていたところ、美女ジュリーに出会い障碍者だと勘違いされる。介護関連の仕事をしているというジュリーと親しむチャンスとばかり、軽薄なジョスランは障碍者のフリをするが、ある日ジュリーの姉で本当に車椅子生活をしているフロランスに引き合わされる。フロランスに一目惚れし、お互い車椅子でのデートを重ねるほどに惹かれるジョスランだったが、それにつれフロランスを欺いていることに罪悪感を抱くようになる。真実を打ち明けたらラクになるだろうが、嫌われるに決まっている。何とか彼女にフラれず打ち明ける方法はないものか・・・・悶々とするジョスランの葛藤は、やがて友人の主治医やお人好しの秘書(ジョスランは成功者で、会社社長を務めています)も巻き込み・・・・良く出来た大人のラブコメディです。

パリ中心の撮影背景が素敵。そしてフロランス役の女優さんがとても素敵でした。この作品を日本に置き換えると誰か。大の大人で綺麗で華やかで、優しそうで懐が深そうで・・となると大塚寧々さんあたり?ジョスランは吉田鋼太郎さんかなと思い付いたけど、このカップル案は「おっ○んず○ブ」で既出でした(^^;)

私がこの作品の前に観たフランス映画は「最強のふたり」で、こちらも車椅子で生活する人が登場します。障碍者の大富豪と、その介護スタッフとして雇われたスラム出身の貧しい移民青年の友情の物語は実話の映画化だとか。格差の厳しさ、貧困のやるせなさ、障碍者の絶望に触れつつも全体のイメージはお洒落という、フランス映画らしい良作です。

「最強のふたり」はハリウッドでリメイクされており(未見ですが、高評価のよう)、ネタ枯れリメイクばやりの昨今、やがては「ニューヨーク、嘘つきな恋」とかも出来そうな気がしますが、「ニキータ」と「アサシン」、あるいはshall we dance?の日米版の対比みたいなことに、ならないことを祈ってやみません。

リプリー(主演マット・ディモン 監督アンソニー・ミンゲラ)

リプリー(原題The Talented Mr.Ripley 1999年 アメリカ映画)

当たり役となった「ジェイソン・ボーン」シリーズ前のマット・デイモンの主演作。この人を見るとジミー大西さんを思い出す私ですが、演技の幅の広さは香川照之さんといったところでしょうか。ジュード・ロウとグウィネス・パルトローが優雅なハイソカップルというハマリ役で共演しています。初見は字幕で確かNHKBSで見ましたが、このご時勢にマズい表現でも見つかったのか現在Amazon Prime Videoの配信は吹き替え版のみのようです。

この映画には1955年に発表された原作小説(タイトル同じ、邦題「太陽がいっぱい」パトリシア・ハイスミス著)があり、

その原作を元に1960年に映画化された「太陽がいっぱい(原題Plein Soleil 、主演アラン・ドロン)」という往年の名作もありますが、本作はそのリメイクではありません。

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ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

(2012年 アメリカ映画 アカデミー監督賞・作曲賞・撮影賞・視覚効果賞の四部門受賞作品)

スランプに陥ったカナダ人作家(原作者ヤン・マーテル=演レイフ・スポール)がインド旅行中、カフェで隣合ったインド人から「カナダにいるインド人に会え。話を聞けば神を信じる」とアドバイスされ、帰国して当該インド人パイ・パテル(イルファン・カーン)を訪ねたところから物語は始まります。神を信じる話とは、貨物船の沈没事故からたった一人生還したパイ少年の奇跡の漂流譚でした。その前段としてパイの成長物語がつまびらかに描かれますが正直この部分が退屈(ゴメンナサイ)で、録画だったのをいいことに初見時の私はぼんやり見てしまったものですが、おそらく集中して見ていても見返さずにはいられなかっただろう伏線だらけのパートです。以下は大いにネタバレしていますので、未見の方はご注意下さい。

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不機嫌な赤いバラ(主演シャーリー・マクレーンとニコラス・ケイジ)

不機嫌な赤いバラ(原題「Guarding Tess」1994年制作 アメリカ映画)

気難しい元大統領夫人をシャーリー・マクレーンが、彼女に振り回されっぱなしのシークレットサービスをニコラス・ケイジが演じています。元といえども大統領夫人ともなればアメリカでは大変な知名度があってイベントに招待される機会も多く、仮に元大統領本人が亡くなっていても、辞退しない限りは夫人にも生涯SPが付くということを知った映画でした。

静かな田舎町で隠居生活を送る元大統領夫人テス(シャーリー・マクレーン)。警護主任をつとめるシークレットサービスのダグ(ニコラス・ケイジ)は、やり甲斐を求めて政府要人担当への異動を願い出ていますが叶いません。何故ならテスが現大統領に直々にダグの任務延長を申し入れているからです。現大統領はテスの尽力で大統領になれた経緯があり、つまりテスが生きている限りダグの希望は叶わないということです。怒り心頭のダグは、これまでは引き受けていた任務外の仕事=お使いや夜食作りは断固拒否する!とテスに宣言しますが、直後に大統領からの直電で「彼女とうまくやるんだ。やれないなら犬の警護をやらせる」と倍返しされます。ダグが小さな抗議で溜飲を下げても即座に上手を打ちやり返すテス。名優二人の攻防は序盤の見どころです。以下はネタバレありですのでご注意下さい。

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恐怖のメロディ(1971年)とライク、シェア、フォロー(2017年)

ストーカーの恐怖を描いた二作。被害者=主人公(男)はともに知る人ぞ知る系の有名人で「恐怖〜」のほうがローカルラジオ局のDJ、「ライク〜」ではユーチューバーというところに46年の時間差を感じますが、ストーカー(女)は偶然を装って近づき男女関係に持ち込むところ、理屈や道理の通じない「人として壊れた人」ながら調査能力に長け、やたらと行動力実行力があるなど、設定がかなり似ています。

「恐怖のメロディ( 原題Play Misty for Me 1971年 アメリカ映画)」

地方ラジオ局のDJデイブ(クリント・イーストウッド)は気ままな独身生活を謳歌中。ある夜、行きつけのバーで出会ったイブリンは、いつも同じ曲(ミスティ)を電話リクエストしてくるデイブのファンだった。思わせぶりな彼女を自宅まで送って行くが、デイブは「恋人がいるから」と男女関係になるのは躊躇する。それなのにイブリンの「一夜の過ちってこともあるんじゃない?」という甘〜い言葉に後押しされ据え膳を食ってしまう。それが恐怖の始まりとも知らずに。

「ライク、シェア、フォロー(LIKE,SHARE,FOLLOW 2017年 アメリカ映画)」

ネットゲームに興じる姿や友だちとのおふざけ動画など、自身の日常を生配信しているユーチューバーのギャレット(キーナン・ロンズデール)。二万人ものフォロワーがつき広告収入もそこそこ入るようになって毎日楽しく暮らしている。父親はそんな虚業ではなく教職などの実業につけと小言を言うが、こんなに良い仕事はないと思っている。そんな彼もフォロワーやファンに個人情報を知られたり、ましてや現実社会で付き合ったりするのはタブーだと考えており、全国から届くプレゼントも私書箱留めにしている。ある日私書箱を借りている郵便店で働く女の子シェルと仲良くなり一夜を共にするが、彼女の正体は、ギャレットがファンとの交流の場にしているライブチャットに顔非公開で現れては、流れを無視して執拗に性的なメッセージを書き込み絡んでくるネットストーカーその人だった。気付いたギャレットは慌ててシェルを自宅から追い立て帰すが、むろん後の祭りだった。以下、二作についてネタバレしています。

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