追悼:田中邦衛さん(八つ墓村/居酒屋兆治)

俳優の田中邦衛さんが2021年3月に亡くなりました(享年88歳)。代表作「北の国から」は連続ドラマも、その後日談として数年おきに放送された単発ドラマも楽しみに観ていました。北海道に旅した際には撮影地の富良野まで足を延ばして、撮影で使われた歴代の家や劇中に登場したお店など見物したのも良い思い出です。2002年の「北の国から 遺言」以降俳優活動は途絶え、いつしか私の心の中では「富良野のどこかで暮らしている黒板五郎」になっていた田中邦衛さんでしたが、名優は映画でも唯一無二の存在感を放っていました。

まずは「八つ墓村」(萩原健一主演/野村芳太郎監督/1977年)。何度もテレビ放送された名作なので、観たことがある方が多いと思いますが、横溝正史原作のオカルト作品で、田中邦衛は騙し討ちにあって惨殺される落ち武者を演じています。以下ネタバレしています。


この映画をうっかり観てしまって、しばらく夜一人でお手洗いに行けなかった子供は多いんじゃないでしょうか。私が怖かったのは1位:ハチマキで頭部に固定した懐中電灯が鬼の角さながら、猟銃と血刀を振りかざし夜桜をバックに疾走する白塗りの山崎努、2位:むせび泣きのような雄叫びをあげつつ鍾乳洞内でショーケンを追いかけ回す白塗りの小川真由美、3位:落ち武者田中邦衛の無残な殺されっぷりでした。戦国時代、のちに八つ墓村と呼ばれることになる山間の村に、敗残の侍八名が落ちのびて来ます。乱暴狼藉を恐れて村はずれに居ついた彼らを当初は黙認したのに、勝者側から密かに持ちかけられた見返りに目がくらんだ村人たちは、落ち武者たちを村祭りに招き酒に盛った毒で動けなくなったところを、よってたかってなぶり殺します。役名があるのはリーダー(夏八木勲)だけで、以下七人は名も無き「落ち武者」たちですが、祭拍子に浮かれたようなひょこひょこ歩き、ホロ酔いの演技などに独特のユーモアが際立って(ああこの後、殺されるのに!)と私の目は邦衛に釘付け(^^;)悲惨な死に様が際立っていました。

市川崑監督版で石坂浩二が演じる金田一耕助映画だと、猟奇的な殺害や遺棄の方法は、古い言い伝えや因果になぞらえて動機や真犯人を隠すための工作だったりしますが、制作配給会社を異にする本作の人死にはマジの祟り・・?という堂々たるオカルト設定。落ち武者たちの死に際の呪詛の言葉「末代まで呪ってやる〜!」が、400年後にコンプリートされたと思えなくもない事実が映画最終版、名探偵金田一の調査により明らかになります。ちなみに本作の金田一は寅さんの渥美清が飄々と演じており、原作者横溝正史のイメージには、渥美清のほうが近かったともされているようです。

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居酒屋兆治(高倉健主演/降旗康男監督/1983年)には主人公の友人役で出演しています。

函館で小さな居酒屋を営んでいる英治(高倉健)を、かつての恋人さよ(大原麗子)が訪ねてくる。さよは英治を忘れられず、子供を残して婚家を飛び出し荒んだ暮らしをしていた。英治とさよは相思相愛だったが、資産家と縁談が持ち上がったさよの幸せを考え、英治が身を引いた過去があった。さよの自暴自棄な行動は、穏やかに暮らしていた英治夫婦と、店に集う常連たちにも波紋を広げて行く。

本作で田中邦衛は、高倉健の主人公(誠実で優しいけれど不器用で口下手)をフォローしたり、元気付けたりする快活な親友を演じています。「北の国から」に置き換えると地井武男が演じた「中ちゃん」の役回りで、黒板五郎とは正反対のシッカリ者で常識人の役ですが、田中邦衛も普通にハマっていて黒板五郎には見えません。役者さんてすごいなと思いました。

そう言えば地井武男さんも亡くなってだいぶ経つのでした。本作も主演の高倉健さん、見とれるほど綺麗な大原麗子さん、そのお人好しの夫役の左とん平さん、常連客役の小松政夫さん、健さん演じる英治に慕われたいのに慕われないのが不満で、イヤ〜なことばかりする先輩役の伊丹十三さんも、みなみなこの世の人ではありません。会ったこともない大スターたちですがさみしいものです。ご冥福をお祈り申し上げます。

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