恐怖のメロディ(1971年)とライク、シェア、フォロー(2017年)

ストーカーの恐怖を描いた二作。被害者=主人公(男)はともに知る人ぞ知る系の有名人で「恐怖〜」のほうがローカルラジオ局のDJ、「ライク〜」ではユーチューバーというところに46年の時間差を感じますが、ストーカー(女)は偶然を装って近づき男女関係に持ち込むところ、理屈や道理の通じない「人として壊れた人」ながら調査能力に長け、やたらと行動力実行力があるなど、設定がかなり似ています。

「恐怖のメロディ( 原題Play Misty for Me 1971年 アメリカ映画)」

地方ラジオ局のDJデイブ(クリント・イーストウッド)は気ままな独身生活を謳歌中。ある夜、行きつけのバーで出会ったイブリンは、いつも同じ曲(ミスティ)を電話リクエストしてくるデイブのファンだった。思わせぶりな彼女を自宅まで送って行くが、デイブは「恋人がいるから」と男女関係になるのは躊躇する。それなのにイブリンの「一夜の過ちってこともあるんじゃない?」という甘〜い言葉に後押しされ据え膳を食ってしまう。それが恐怖の始まりとも知らずに。

「ライク、シェア、フォロー(LIKE,SHARE,FOLLOW 2017年 アメリカ映画)」

ネットゲームに興じる姿や友だちとのおふざけ動画など、自身の日常を生配信しているユーチューバーのギャレット(キーナン・ロンズデール)。二万人ものフォロワーがつき広告収入もそこそこ入るようになって毎日楽しく暮らしている。父親はそんな虚業ではなく教職などの実業につけと小言を言うが、こんなに良い仕事はないと思っている。そんな彼もフォロワーやファンに個人情報を知られたり、ましてや現実社会で付き合ったりするのはタブーだと考えており、全国から届くプレゼントも私書箱留めにしている。ある日私書箱を借りている郵便店で働く女の子シェルと仲良くなり一夜を共にするが、彼女の正体は、ギャレットがファンとの交流の場にしているライブチャットに顔非公開で現れては、流れを無視して執拗に性的なメッセージを書き込み絡んでくるネットストーカーその人だった。気付いたギャレットは慌ててシェルを自宅から追い立て帰すが、むろん後の祭りだった。以下、二作についてネタバレしています。

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恐怖のメロディの続き。一夜だけの言葉はどこへやら、翌早朝イブリンは女房気取りでデイブの自宅に押しかける。デイブは困惑するが、イブリンはデイブの行動パターンを熟知していて(バーでの出会いももちろん偶然ではない)ラジオ局や立ち回り先にもあらわれるようになる。ハイテンション→突然激高→泣いて詫びるパターンを繰り返す情緒不安定なイブリンをデイブは持て余しウンザリしながらも、男女関係になってしまった手前強く拒否できない。そんなある日、デイブは音信不通になっていた恋人トビーと再会する。トビーはデイブの浮気癖に辟易し距離を置いていた。心を入れ替えるとトビーに約束したデイブは、今後会う気はないとイブリンに訣別宣言するが、イブリンの異常行動は加速してゆく。

本作はストーカーという概念がまだアメリカにもなかった時代に制作された(なので劇中でストーカーという言葉は出てこない)ストーカー映画のはしりで、これが監督デビュー作というところにイーストウッド監督ののちの大成が見えるようです。そしてイブリンの怖いこと(>_<)自分を受け入れてくれないデイブに浴びせる罵詈雑言、たまたま出くわした近所の人に浴びせる罵詈雑言、デイブと会食していた仕事関係者の女性に嫉妬心から浴びせる罵詈雑言(その結果デイブはステップアップのチャンスを棒に振る)、お芝居の台詞だとわかっていても狂気を感じる演技力です。いつの間にかトビーのルームメイトになっていたのも、サスペンスものの展開としてはお約束なんですがヒェッとなりました(^^;)。

そしてこの邦題。怖い話に「恐怖のメロディ」はないだろうと、観る前からハードル上げてどうする?と思っていました。原題の「ミスティをかけて」では何の映画かわからないのでテキトーにサスペンスっぽい題名をつけたのかなくらいに思っていたのですが(^^;)今回調べると、往年の名曲ミスティは「Look at Me=私を見て」で始まる一途でうぶな恋心を綴った歌詞なんだそうで、ストーカーのイブリンがそんな曲を自分の心情?になぞらえて、毎日デイブにリクエストしていたと考えると確かに恐怖(^^;)ど真ん中直球の邦題にも思えるのでした。

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時代が下がりストーカーの危険性が世の中に浸透し、関連の法整備も進んでいる現代の「ライク〜」の続き。ギャレットは早めに警察を頼るが、狂気のシェルには警察の警告もおまじない程度の効力でしかない。ギャレットの周囲の人にも危害が及ぶようになり、警察はギャレットにいったんどこかに身を隠せと忠告する。でもネット上でどうやって身を隠すの?俺はユーチューブで食ってるんだよ?困惑するギャレットだったが、そのうちシェルが過去にもストーカー事件を起こしていること、相手は死んだらしいとの情報も入り、さすがに恐ろしくなってとっておきの隠れ家に避難する。

番地もない山の中の別荘(親戚所有。ギャレットはその山荘についてネットで話題にしたことはないと確信している)に配信仲間の友だちと落ち着いたギャレット。シェルを刺激しないようネット配信もしばらく休めと警察に指示されているのに、我慢できず再開してしまう。シェルはネット上でも現実社会でもギャレットを見失っていたものの、最新の配信からヒントを得て、ギャレットの過去の全配信をしらみ潰しに見返し「変わり者のおじさんのど田舎の家」についての言及を見つけ、ギャレットの現在地を特定する。シェルが山荘に辿り付き侵入したとき、ギャレット(と友だち)はユーチューブの生配信中だった。

突如あらわれたシェルに襲われ動転しながらも、生配信を観ていたフォロワーたちに山荘の場所を教え、警察に通報してくれと頼んで逃げるギャレット。フォロワーたちは固定カメラゆえ事件の全貌は見えておらず、スマホでどこかへ電話をかけだす人もいるが、大部分が半信半疑なのかそのままなりゆきを静観している様子が、ギャレット側のパソコンの分割画面に表示されている。シェルの目標はあくまでギャレットなので、友だちは何とか戸外に逃れるが車はシェルにより走行機能を失っており、徒歩で警察に向かう。。。

かけがえのない大切なもの(デイブにとっては恋人トビー、ギャレットは自分の身体生命)を守るために反撃に転じれば、体格体力に勝る男が勝つのは当たり前で、イブリンもシェルも最後には死にますが、ライク〜のほうはその後に怖いもうひとひねりが。将来はユーチューバーになりたいという子供さんが多いらしいですが、この映画は大勢の人に無防備に自分を晒すリスクを知る教材になるんじゃないかと思います。出演者にメジャー級の俳優がいないせいかDVD化や配信も今のところないようですが、九月にスターチャンネルで放送予定みたいです。せっかちな方用に結末を記しますが、知りたくない方は本当にこの先は観ないで下さい。

https://www.star-ch.jp/channel/detail.php?movie_id=26606

 

 

シェルを何とか倒したものの、大怪我を負わされ自力では動けないギャレット。そこに車で来られなくはない場所に在住だったフォロワーの女性が到着します。彼女は室内を見回し(そこにはシェルの遺体もある)やらせじゃなかったことに興奮しつつ、ギャレットを手助けして自分の車に横たえます。病院か警察につれていってと息も絶え絶えに頼むギャレットに「心配しないで。私、犬の骨折を治したことがあるから」と浮かれた様子で応える女性。愕然とするギャレットを乗せた車と、友だちの案内で山荘に向かうパトカーがすれ違って物語は終わります。ギャレットにはこの先「ミザリー」のような展開が続くのかもしれません。

「ミザリー(Misery  1990年 アメリカ映画)」。スティーブン・キングの原作も映画もどっちも相当怖いです↓。熱帯夜におすすめ。

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